セックスの話なんですが、大体において我々メンズが女性とセックスをする場合、事前に愛撫をカマす、率直な言い方をすれば手マンを施す……というのがグローバルスタンダードであり、また僕たちは、誰に教わるともなく手マンという妙技を体得するものである。   さて手マンであるが、実際の場面において手マンが気持ち良いか否か?これついては個々人のテクニックにかなり左右されと言わざるを得ず、なぜならそれは我々が心ある人間だからである。ある人がフェザータッチのような手マンを繰り出す一方、別なる人は荒ぶる神々の如き手マンを炸裂させる、というのが我々を取り巻く現状だ。世の中に同じ手マンは一つとして存在しない。 結果として世俗には "女性から不興を買う手マン" というものが爆誕する。あの人、顔はいいけど手マンがちょっとね……という会話、都心のスタバあたりでは日に八回は交わされている、という電波を先ほど受信した。女性の手マンに対する関心は、相当に高い。 爪が長いままに行われる手マンはアウト、という話をよく耳にする。単純に痛いから、というのがその理由だそうだ。考えてみれば当然のことである。 それでも地震雷火事セックスは、いきなり起こる。なので、すわセックス!という段になった際、初めて自分の爪が長いことに気が付いたとしても、セックスにおいてはムードも大事らしいので 「ちょっとゴメン、爪切るから5分待ってね」 中々言えないものである。薄暗い部屋の中で爪切りから放たれるパチン!パチン!というポップなサウンド、思わずマンコも乾くひと時だ。しかし、長い爪はアウトだとも聞くし……一体どうすれば……こんなとき、我々は激しい懊悩を抱えることになる。 もちろん女性からすれば、そんなものは何の言い訳にもならない。詰まるところ、常日頃から爪の手入れは欠かすな!ということである。男は何かと爪を粗末に扱いがちであるが、ミース・ファン・デル・ローエも仰った通り 『神は細部に宿る』。忘れず心に留めておきたい。 さて、爪をきちんと処理した我々が 「すわ、手マン!」 となったとき、一体いかなる行動に打って出るのか。様々あるだろうが、例えばこんな状況を考えてみて頂きたい。 ――Nさんの場合―― 「オラッ!ここがいいのか!ええのんか!オウオウ?!」 「ダメ!いい!やめて!もっとして!」 「どっちなんや!ウオオ、ウアアアアア!!」 「ウップス!オア、アオオ!カモナップ!」 刹那、ピタリ……と止まる手マン Nさん(このタイミングで手マンが止まれば、きっと淫獣・性獣のような風情で愛撫を求めてくるはずだ) 以上が、業界用語でいうところの "寸止め" である。性的なテンションがクライマックスに近づいてきたのを見計らい、唐突に手マンをストップさせるという残忍なやり口。きっとその手法、Nさんのみならず6割方の男性は挑戦したことがあるのではないだろうか。そしてそのとき、皆さんは確実に 「してやったり」 と思っていたはずなのである。それがAVを見て育った健康優良日本男児としての帰結であり、僕たちはソウルの部分で繋がっている。 また更に我々は、女性側からの 「らめぇ!止めちゃらめぇ!」 「もっとしてぇ!早く野太いペニスをおくんなさいまし!」 というリアクションも期待していたであろう。全体、男という生き物は 「らめぇ!」 とか 「ひぎぃ!」 といった類のシャウトに弱い。 『時には娼婦のように 淫らな女になりな』 という歌もある。男は、日常では女性に対して清楚さを求めつつ、行為の場面においては、清楚をかなぐり捨てた淫らな顔を求める。その為に放つ窮余の一策、それが寸止めなのである。ご理解頂けただろうか。 ――といった趣旨のことを先日、例の 『卓球のラケットがベリー・ナイス』 発言で日本を震撼させた女性に告げたところ、彼女は極めてドライな口調で 「そういう男の勘違いって、本当に迷惑なんですよね。積極的に許せないです」 ピシャリと言い放った。曰く、 『別に寸止めされても 「お願い、止めないで!」 みたいな気持ちにはならないし、それどころか 「あー、何かもう今日はいいや。早く寝たい」 みたいな気持ちになる』 とのこと。僕は、へえ、と思った。 待って欲しい!マルクル風に言うと、待たれよ。おかしな話じゃないですか、ねえ、だってこれまで僕が寝食を忘れて情熱を傾けた教材、具体的にはAVとか官能小説とかエロゲなど、においては、男優ないし主人公が情事の際に手マンをピタリ……と止めた場合、女性は、あたかもそれが自然の摂理であるかのようにさり気なく、しかして大胆に 「ドントストップ、プリーズ!」 「ファック・ミー・ハード!」 と獣が如き雄叫びを上げていたはずであり、そこから鑑みれば 『お願い止めないで!みたいな気持ちにはならない』 というご意見は、ちょっとそれは、ちょっとそいつはねえ、通らないでしょう。何だかすごく惨めだと思いませんか。思いませんか! 夢、幻の類に違いない。 僕は這々の体で帰宅すると、慌ててインターネットを開いてgoogleにすがりつく。googleはいつだって優しく、そして暖かい。googleは僕を裏切らない。そして震える手つきで検索窓に様々な語句を叩き込んだ。 助けて、google先生――! その結果がこれだよ。 ■ 女ってイクのを寸止めされ続けるとどうなるの? (アルファルファモザイク) 【男側の意見(スレより)】 ・お願いだからイカせてええええ、って言ってくるんじゃないの?童貞だけど ・寸止めされたらそりゃあ、「いやぁ〜だめぇ・・・お、お願いはやくイカせて」 はぁ?逝かせてくださいだろ!!! 「はぁ、はぁ、お願いします、イカせてください」 ってなるだろう。 (以下略) 【女性側の意見(コメント欄より)】 ・寸止めされると、さーっと波が引くみたいな感じになって一気にさめるから、続きとかいう気分じゃなくなる。その後はひたすら演技。 ・単にイラつくだけ そこから更に一定時間経過すると、熱が冷めてどうでも良くなる 後はこいつヘタだなとか、明日のスケジュールとか思いながら適当に演技して終る ・うん、「あ、ここで終わりなんだ」ってスイッチが切り替わるだけ。あとは適当に「うわ、アホみたい自分」と思いながら適当にアンアン言うだけ。もしくはアンアン言う気力もなくなって「ちょっと痛いからやめて欲しいんだけど」って話になる。 ・マジレスすると発狂とかない。興冷めするだけ。 (心臓が痛くなってきたので以下略) 読み進めているうちに思わず麻縄を探しかけたが、つまり僕の、あるいは我々の有していた認識は初手から誤りだったことに、なるのだろうか?おそらくそうなのだろう。それにしても、これはあまりにも辛く、そして痛い現実だ。 思い出す、ありし日の自分の姿を。 「ほーら、オチンチンだよー^^」 「キャーいれてー!」(明日の晩飯は松屋にすっかな) タイムマシーンがあったらば。僕は急いで昔の自分を殴りに、いや殺しに!行くことだろう。決して少なくない数の思い当たる節が、いま、僕の心を鋭く抉る。 諦めきれなかった僕は、その後の執拗な追跡調査によって 「まあそういう人もいるかもしれないけど、私的には寸止めもアリかなって思うけど」 という意見も発掘した。しかし、どうにもそれは少数派のご意見であるらしく、大半の方は 「寸止め(わらい)」と侮蔑的な笑みを浮かべておられた。だからきっと、それが真実の声なのだろう。【人は見たいと欲する現実しか見ようとしない】とはカエサルの言であるが、己の願望に固執するがあまり、暫定的な事実から目を背けるような態度は甚だ不誠実だ。僕たちは、僕は、過去の自分を真摯に省みなければならない。 ただそれでも!僕たちは聞きたいのである、 「らめぇ!」 という声を、あるいは 「ひぎぃ!」という心のシャウトを。そのために試行錯誤した結果、到達したのが "寸止め" の境地だった、そのことだけは、共感しろとはいわないが、できれば理解して頂きたい。それは綺麗で美しく、本当にピュアかつ純朴な、下心。察して下さい。 嗚呼、僕たちは。 流れ行く時間の中で、歩みを止めることはできない。 反省を活かし、後悔を噛み締め、少しずつでも成長していかなくてはならない。 それはきっと、新しい自分に出会うために。 より高く飛翔し、いつの日にか真理をこの手に、掴むために。 僕「じゃあ寸止めはダメ、意味がない……という前提で考えてみたんですが、どうでしょう、たとえば手足をガチガチに縛って、そのまま密壷に大人のホビー・トイをブチ込んで一時間放置――とかそういうの?!これはさすがに 『らめぇ!』 『ひぎぃ!』 となるのではありますまいか!?」(ほぼ原文ママ) 「あの、バカじゃないんですか?」 どうやら僕はまた道を踏み外すところであったらしい。 真理への道はとても険しく、そして遠い。